toppage2012年度BAMIS学内公募研究
体育系 准教授 麻見 直美
柔道は、体重階級制のある競技であるため、多くの選手が、階級に合わせた体重を維持するために食事摂取の制限を行っている。食事摂取量を制限することや、体重を意識するために食品選択に制限を課すことは、身心に大きなストレスとなっている。食事量等の制限を行うことに伴う心的ストレス、および/あるいは、食事量等の制限による摂取エネルギー量の不足(エネルギー有効性の低下)が身体に及ぼすストレスは大きく、とくに女子選手では、月経状況や骨量を含む体組成に重大な悪影響を及ぼす。女子選手にとっては、良好な月経状況および体組成を維持することは、身心の健康に重要であり、延いてはパフォーマンスの維持・向上に大きな影響を及ぼす。しかし、女子柔道選手の日常の食事状況、試合期の減量時の食事状況に関する調査はほとんど行われておらず、またその食事状況が身心のコンディションにどのような影響を与えているかも知られていない。
そこで、本研究では、大学女子柔道選手を対象に、鍛錬期の食事状況、試合期の減量時の食事状況を調査し、それらが、身心のコンディションや体組成にどのような影響を及ぼしているかを検討した。
体育系 教授 武田 文
運動実践や身体活動は,身体疾患(生活習慣病,メタボリックシンドローム,ロコモティブシンドローム等)および精神疾患(うつ病,うつ状態等)いずれの予防にも寄与することが多くの研究から明らかにされてきた。これらを受けて,WHO(世界保健機関)は心身健康のための身体活動ガイドラインを作成し,我が国でも厚生労働省が健康づくりのための身体活動ガイドラインを作成し,健康政策「健康日本21(第二次)」においても,健康寿命の延伸にむけた一次予防対策として身体活動を位置づけている。
しかしこれらのガイドラインでは,65歳以上の高齢者が一律に扱われている。わが国では2011年時点で65歳以上の高齢者人口が総人口の23.3%に達し,今後も75歳以上の「後期高齢者」が増加し続ける超高齢社会に突入している。心身機能は加齢により低下することからも,高齢者に関して年齢層を考慮した身体活動ガイドラインが必要と考えられる。
一方で,近年のWHOヘルスプロモーション戦略においては,健康阻害要因(リスクファクター)を除去する疾病予防アプローチのみならず,健康促進要因を向上させるアプローチが必要であることが強調されるようになった。そしてこの観点から,ストレスや逆境があってもそれを乗り越えて心身の健康を保持する要因であるストレス対処力の一つとして,Sense of Coherence(SOC)が注目されてきた。これまでに,SOCと心身の健康状態や死亡率との関連が実証され,SOC を高める要因に関する研究が進められている。
高齢者のSOCを高める要因については,運動・スポーツ活動をとりあげた実証検討が行われているが,活動内容に関する詳細な検討はなされておらず,また,運動・スポーツ活動以外(仕事やボランティア等の仕事関連活動,家事や介護等の家庭内活動)を含めた身体活動との関連は検討されていない。
以上をふまえて本研究では,地域在住の比較的活動的な元気高齢者に関して,SOCと運動実践・身体活動との関連を,年齢層別(前期・後期)に詳細に検討することにした。
研究目的は,比較的活動的な地域高齢者のSOCに関連する(1)運動・スポーツ活動の内容,および(2)身体活動の種類を,年齢層別(前期・後期)に明らかにすることである(図1)。
体育系 教授 鍋倉 賢治
筑波大学で開講されている自由科目「つくばマラソン」は全国でも例をみない“フルマラソン”を題材にした授業である。平成24年度は、実技科目としては異例とも言える約250名の学生が履修する見込みとなっている。大きな特徴として、受講生の大半は陸上競技未経験者であり、特別な運動習慣がない学生が大部分を占めている。それでも毎年9割以上の学生がフルマラソンを完走し、翌年度も受講する“リピーター”となる例も多い。昨年度の受講生に実施した調査では、事前に立てた目標記録の達成、未達成に関わらず自己効力感や自尊感情が高まり、その影響は一過性ではないことが示唆された。一方で、なんらかの理由で出場できなかった者の自己効力感や自尊感情は低下する傾向が見られ、トレーニング状況いかんよりも、目標とする大会のスタートラインに立つことが内面的な成長に最も重要であることが示唆された(岩山ら、ランニング学会2012)。
本研究では「つくばマラソン」の受講生の心理的変化を、初めて受講する学生と複数回受講している学生にわけて分析することで、自由科目「つくばマラソン」の教育的効果を高めるための工夫探るとともに、心の健康度を評価する指標を用いたメンタルヘルスへの影響を調査した。
生命システム医科学専攻 教授 佐藤 誠
蛍光灯や青色発光ダイオードの開発以来、我々が日常生活で浴びる光の短波長成分(青い光の成分)が飛躍的に増大しつつある。特に夜間に短波長光を浴びると睡眠相後退症候群など睡眠への影響が大きいことが報告されている(Evening exposure to blue light stimulates the expression of the clock gene PER2 in human. Eur J Neuroscience 23:1082, 2006)。本研究は「運動」「栄養」「休養」が調節因子を共有して協調していることに基づき、光環境、特に夕刻以降に青い光(短波長光)を浴びることを減らすことで、睡眠の改善と肥満予防を目指して開始した。
第37回日本睡眠学会(6月30日)及び筑波大学(7月27日)に京都工芸繊維大学小山恵美教授と光照射条件について意見交換を行い、研究成果の一部は英文誌への投稿を準備している。
体育系 准教授 谷川 聡
あらゆるスポーツにおけるトップ競技者の競技的発達過程は、スポーツとの出会い(初期発達段階)、スポーツトレーニング開始から競技種目への到達(競技形成段階)、専門的トレーニング(専門的段階)、最高成績の達成と維持(高次活動段階)の4段階に区分できる。段階に応じて複雑な運動能力を効果的に発達させる為に、走・跳・投やその他の動きを組み合わせ基礎的動きを習得する。しかし、高次活動段階で成長による競技力の発達 がなくなり、怪我の繰り返しによりパフォーマンスの向上が止まる。スポーツの最も基本であり、単純な循環運動である走りにおいては、選手による運動感覚の構築構築によって、 走りの運動構造およびパフォーマンス構造の設計が選手自身によって認識されることが 重要である。一般市民ランナーや長距離実業団チームから離れたマラソン選手が日本代表選手になり、専属コーチを持たない日本の歴代のスプリントおよびハードルの日本記録 保持者が数多く存在することはそれを証明しているものと思われる。そこで本研究では、20代中盤以降まで高次活動段階で活躍したマラソンおよび短距離・ ハードル日本代表選手を対象に競技力向上の鍵となった運動感覚を明らかにすることで、パフォーマンスの変容との関わりおよびコーチング方法のあり方について再考するものである。
体育系 准教授 前田清司
【研究の全体像】
我が国では、高齢化に伴い要介護者が増加し続けている。要介護となる主な原因は、脳卒中や認知症などの脳血管障害に関連する疾患が約半数を占める。特に、認知症患者は現在の200万人から2040年にはおよそ2倍の400万人になると推察されている。これらのことから、今後、増加し続ける脳血管障害を予防して、中高齢者の心身の向上を図ることは重要な課題であると考えられる。
脳の血管は、他の臓器と比べて血管抵抗や血流の拍動が低く、脳に供給される血流が維持される仕組みになっている。脳血流の低下は神経変性、細胞死、脳萎縮を引き起こす要因となり、一方で脳血流拍動性の増加は脳の微小血管を損傷させる要因となる。すなわち、脳血流の低下や脳血流拍動性の増加などの脳血流動態の変化は脳血管障害の危険因子となる。これまでに、我々は中高齢者における有酸素性運動トレーニングが安静時の脳血流速度を増大させることを明らかにした(Akazawa et al., Arte Res 2012、2010年度BAMISプロジェクト)。このようなトレーニングによる適応は、継続的な運動を繰り返すことによる適応と考えられるが、一過性の運動が脳血流動態に及ぼす影響は明らかにされていない。近年、脳血流拍動性は全身の動脈スティフネスと関連することが報告された(Xu et al., Am J Hypertens 2012)。高齢者において、動脈スティフネスは有酸素性運動トレーニング後の一過性の有酸素性運動により低下する(Maeda et al., Hypertens Res 2008)。これらのことから、有酸素性運動トレーニング後における一過性の有酸素性運動により、脳血流拍動性は低下する可能性が考えられるが、有酸素性運動トレーニングが一過性の有酸素性運動後の脳血流動態に及ぼす影響は明らかになっていない。本研究では、脳血流の拍動性に着目し、中高齢者における有酸素性運動トレーニングが一過性運動による脳血流拍動性の応答を亢進させるか否かを検討した。
【研究目的】
本研究の目的は、中高齢者における有酸素性運動トレーニングが一過性運動による脳血流動態の応答に及ぼす影響を検討することを目的とした。
体育系 教授 高木 英樹
泳動作は,水中で行う運動であり,媒体である水に対してうまく力を作用させ,その力を自己の推進力に変えて移動する身体運動である.競泳選手は,いわゆる「水を捕える」という能力が優れており,時々刻々と変わる水の変化を感じ取りながら水に対して力を作用させ,推進力を生むのに最適な動きを実行している.この時,泳者は感覚器から多くの感覚情報の入力があるが,泳動作に必要な情報を選択するために,自己の何らかの身体感覚に意識を向けていると考えられる.先行研究では,泳者が泳中に意識すべき身体感覚をいくつか取り上げているが,これらの身体感覚への意識の違いが泳動作へどのように影響するのか不明なままである.そこで本研究では,泳者へ意識すべき箇所の指示を変え,その違いによって泳動作に与える影響を明らかにする.本研究によって,泳者の意識の向け方と泳動作の関係性を理解するのに役立つといえる.
体育系 特任助教 古屋 朝映子
文部科学省が策定した幼児期運動指針(文部科学省,2012)でも言及されているように,幼児期における運動は,主体的な遊戯遊び形態(以下,運動遊びとする)であることが重要であり,そのためは環境の構成に対する工夫の必要性がある.しかし,現在行われている運動遊びは,「何かを指導する」プログラムが多いのが現状である.
「幼児が自発的に体を動かしたくなる環境」を実現するには,運動遊具は大切な役割を担っている. 遊具に関する先行研究(高橋,2005)では,幼児が自発的に様々な運動遊びを展開するためには,運動遊具の条件として,適度のリスクを備えていること,多様な遊びを展開できることを挙げている.筆者は,「適度のリスク」は運動遊具の不安定性(=アンバランス)にあると考え,遊び方が決まっておらず,多様な用具特性を持つ「バランス遊具」である,ビリボ(MOLUK社,スイス)に着目した(写真1参照).ビリボは,高密度ポリエチレン製の遊具で,耐加重100kgのため,中に入ったり上に乗ったりと,様々な遊びを展開できる.また最大の特徴は,取り扱い説明書等で遊び方を限定しておらず,使用者自らが使用方法を創造することを重視しているところである.
本研究では,幼稚園(5歳児クラス)を対象として,できるだけ一斉指導を行なわない形式でビリボを使用した運動遊びを実践し,幼児が好む運動内容の傾向を明らかにすることで,幼児が自発的に行う運動遊びプログラム構築のための基礎的資料を得ること研究目的とした.
体育系 准教授 宮崎 明世
体育授業において生徒たちが運動を習得する過程では、「わかって」「できる」ことが重要である。本研究では、高校2年生男女の陸上競技の授業の中で「踏切り」、「踏切3歩前のリズムアップ」を中心とした、走り幅跳びの正しい技術を理解させ、授業を通して跳躍の度に生徒が自らのパフォーマンスを振り返り、内省することで運動感覚をつかむ過程を明らかにしようとした。ポイントを意識して運動することで、生徒の運動感覚がどのように変容し、それがどのようにパフォーマンスに現れるのかを明らかにするため、内省についての記録と映像を照らし合わせた。
本研究では高校生の男女を対象とし、陸上競技・走り幅跳びの体育授業を通して、高校生が意識と身体を統合し、パフォーマンスを向上させる過程を明らかにすることを目的とした。また、生徒がパフォーマンスを向上される過程で、有効であった教師の指導について、その内容と具体的な言葉かけについて検討した。
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